生成AIと個人情報とは?自分で確かめてよいことと、誰かに上げることの分け方

「この顧客名簿、AIに要約させていいですか」と聞かれて、答えに詰まった。導入を任された担当者なら、一度は通る場面ではないでしょうか。
調べてみると、弁護士事務所や監査法人の解説が並びます。条文の番号と、法的な評価が書かれています。
読むほどに分かるのは、これは自分ひとりで結論を出す話ではない、ということです。
かといって、何も整理しないまま法務に丸投げするのも気が引けます。何を聞かれるかも分からないまま持っていくことになるからです。
この記事では、生成AIと個人情報の話がそもそも何を決める話なのか、どこまでを自分で確かめてよいのか、誰に何を持っていけばよいのかを整理します。
根拠にしたのは、個人情報保護委員会の公表資料と、各AI提供元の公式文書です。
この記事は法的な結論を出しません。同委員会が何を書いているかを並べて、相談の入口までご案内します!
この記事の監修者

AIリスキル株式会社 代表取締役
AIツールギャラリーを運営するAIリスキル株式会社の代表取締役。企業・自治体向けの生成AI研修とAI導入支援を手がけています。
実績: 大阪・関西万博 公式プログラム「AI HEROES COLLECTION」司会進行 / 神戸市デジタル人材育成エコシステム構築事業の運営 / MBS「せやねん!」「よんチャンTV」に生成AIの専門家として出演 / Felo日本初コアアンバサダー / Genspark第1期公式アンバサダー / Skywork公式アンバサダー / AKOOL公式パートナー など
生成AIと個人情報の話は、何を決める話か

最初に、この記事の立場をはっきりさせておきます。
本記事は、法的な可否の判定をしません。当サイトは法律事務所ではありませんし、個別の事案の結論は資料と契約を見た人でなければ出せないからです。
代わりに扱うのは、目の前の1件をどこへ持っていくかです。自分で確かめれば済むことと、誰かに上げることの分かれ目を作ります。
まぎらわしい語も先に片づけておきます。
英語圏では、個人を識別できる情報をまとめて PII と呼ぶことがあります。ただし、個人情報保護法の条文では使われていない呼び方です。本記事では「個人情報」で通します。
資料そのものをどう区分するかは、機密情報の記事が扱っています。本記事はその手前で、個人情報に触れたときの持っていき先を決めます。
個人情報保護委員会は誰に向けて何を書いているか

一次情報から始めます。
個人情報保護委員会は、令和5年6月2日付で「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています。別添の資料が2本ついています。
中身に入る前に、この文書の構造を見てください。
注意点が、読み手の立場ごとに3つに分けて書かれています。会社として守る話と、使う人が気をつける話が、同じ文書の中で分かれているということです。
以下は、2026年9月18日に別添1のPDFを開いて確認した内容の整理です。
| 誰に向けた項目か | 項目数 | 同委員会が書いていること(要約) |
|---|---|---|
| (1)個人情報取扱事業者における注意点 | 2 | 個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認すること。本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は法の規定に違反することとなる可能性があるため、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること |
| (2)行政機関等における注意点 | 2 | 利用目的のための必要最小限の利用又は提供であることを十分に確認すること。保有個人情報について、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること |
| (3)一般の利用者における留意点 | 3 | 入力した個人情報が機械学習に利用され、他の情報と統計的に結びついた上で出力されるリスクを踏まえて適切に判断すること。応答結果に不正確な内容の個人情報が含まれるリスクを踏まえて適切に判断すること。提供事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認すること |
この表は同委員会の記述を整理したもので、当サイトの判断ではありません。原文は出典の節からご確認ください。
もうひとつ、語の使い分けにも気づいておきたいところです。
(1)の1つ目は「個人情報」、2つ目は「個人データ」、(2)の2つ目は「保有個人情報」と書かれています。同じ文書の中で、語が使い分けられています。
もう1本の別添は、同委員会がOpenAIに対して行った注意喚起の概要です。令和5年6月1日付で行ったと書かれています。
そこでは、「要配慮個人情報」という語が使われています。本記事ではこの語の定義には踏み込みませんが、個人情報の中がさらに分かれていることは、頭の片隅に置いておいてください。
会社として守る話と、個人が気をつける話はどこで分かれるか

3つに分かれているということは、まず自分がどれとして読むかを決める必要があるということです。
会社の業務として顧客の情報を扱っているなら、まずは(1)の側として読むのが出発点です。(1)が宛てているのは、個人ではなく事業者だからです。
ただし、(1)が宛てている「個人情報取扱事業者」は法律上の定義語です。定義そのものはガイドラインが定めているので、本記事では書きません。
自分のアカウントで個人的に試しているだけなら、読むのは(3)の側です。
問題は、この2つが現場では混ざりやすいことです。個人のアカウントのまま業務の資料を入力してしまう状態は、シャドーAIの記事が扱っています。
そして、(1)の側として読むと決めた時点で、それは自分ひとりで完結する話ではなくなります。
同委員会は(1)の中で、利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認することと書いています。利用目的が何として特定されているかは、担当者が単独で決められるものではありません。
ここが分かれ目です。自分の立場が(1)の側だと見えたら、確認の材料を集めて上げる側に回ります。
なぜ担当者が最終判定をしてはいけないのか

「自分で決めない」と言われても、理由がないと納得しにくいと思います。
理由にできる注記が、ガイドラインそのものの中に置かれています。
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」には、記述の強さについての注記があります。
同ガイドラインは、「しなければならない」「してはならない」と記述している事項に従わなかった場合は、法違反と判断される可能性があるとしています。
一方で、「努めなければならない」「望ましい」等と記述している事項は、従わなかったことをもって直ちに法違反と判断されることはないとも書いています。
つまり、同じ文書の中で記述の強さが分かれています。どの記述がどちらなのかを読み分ける作業は、担当者が片手間でやるものではありません。
さらに決定的な注記があります。同ガイドラインは、記述した具体例が典型的なものであって全ての事案を網羅したものではなく、個別ケースによっては別途考慮すべき要素もあり得ると書いています。
網羅ではないとガイドライン自身が書いている以上、チェックリストのように使うのは無理があります。
この読み取りは当サイトのものです。根拠にした注記のほうが、ガイドライン自身の記述です。
用語についても同じことが言えます。本記事で開いた資料の中でも、「個人情報」「個人データ」「保有個人情報」「保有個人データ」がそれぞれ別の語として使われていました。
本記事ではこれらの定義を書きません。定義はガイドラインが定めているので、必要になったらそちらを開いてください。
そのガイドラインも1冊ではありません。同ページには、通則編のほかに、外国にある第三者への提供編、第三者提供時の確認・記録義務編、仮名加工情報・匿名加工情報編、認定個人情報保護団体編があると書かれています。
どの編を読むかを選ぶ作業自体が、すでに専門の領域です。ここを担当者が独力で当てにいく必要はありません。
提供元について何を確認することになっているか

別添1の(1)の2つ目には、具体的な確認事項が書かれています。
同委員会は、提供事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することと書いています。
同委員会はリーフレットでも、提供者が学習データとして利用することとしている場合に利用者が個人データを入力すると、利用者から提供者に対して個人データを提供したことになると説明しています。
この「確認」は、提供元の公式文書を開けば担当者でも進められます。以下は、2026年9月18日に各社の公式ドキュメントで確認した記述です。
- OpenAIは、2023年3月1日以降、APIに送られたデータは明示的にオプトインしない限りモデルの学習や改善に使わないと書いています
- Anthropicは、既定では商用プロダクトの入力と出力をモデルの学習に使わないと明記しています
- Googleは、許可なしにドメインの外で生成AIモデルの学習に使うことも人間がレビューすることもないとしています
- Microsoftは、プロンプト、応答、Microsoft Graphを通じてアクセスされるデータは基盤となる大規模言語モデルの学習に使わないと書いています
ただし、いずれも法人・API契約についての記述です。同じ社名でも、消費者向けプランは別の文書で説明されています。
どの契約についての記述かを確かめずに引き写すと、確認したことになりません。会社として契約する形は社内GPTの記事が整理しています。
学習に使うかどうかとは別に、保存についての条項がある点にも注意が要ります。この話はゼロデータ保持(ZDR)の記事の担当です。
いま書かれていることは、いつまで有効か

ここまで引いてきた注意喚起は、令和5年6月2日付です。日付をそのまま書いたのは理由があります。
同委員会のサイトには、「令和8年 改正個人情報保護法について」というページが置かれています。
そのページによれば、改正法案は令和8年7月10日の国会で可決・成立し、令和8年7月17日に公布されました。
そして同ページには、円滑な施行に向けて引き続き政令、規則、ガイドライン等の検討を行うと書かれています。
実際、令和8年7月31日、8月26日、9月9日、9月16日と、政令・規則・ガイドラインの整備についての決定や議論が続けて掲載されています。
つまり、細かいルールはまだ動いている途中です。
本記事で確認した範囲では、生成AIを対象とした新しい注意喚起は見つかりませんでした。令和5年6月2日付のものが掲載され続けています。
ただし、区分の違う掲載物はあります。同じ一覧には、令和7年2月3日付の「DeepSeekに関する情報提供」が「情報提供」として並んでいます。
ガイドラインの側にも、日付の断りがあります。通則編のページには、特に断りのない限り、示す法令の条番号は令和8年6月14日時点のものだという注記が置かれています。
条番号すら、時点を添えて書かれているということです。二次記事から条番号だけを引き写すのが危ういのは、このためです。
だからこそ、確認した内容を社内資料に書き写すときは、出典名と確認した日付を一緒に残してください。日付のない資料は、次に誰かが読んだときに検証できません。
社内の誰に、何を持っていけばよいか

上げる側に回ると決めたら、手ぶらで行かないことが大事です。
持っていく材料は5つです。
- 使いたいAIの製品名とプラン名(消費者向けか法人契約かが分かる形で)
- 入力しようとしている情報の中身(項目名の一覧でかまいません)
- その情報が何のために集められたものか(利用目的として何が示されているか)
- 提供元の公式文書で確認した学習利用についての記述と、確認した日付
- 社内の既存ルールでの扱い
このうち上の4つは、担当者が自分で集められます。5つ目だけは社内文書を開く必要があります。
持っていく先は会社によって違いますが、目安は「誰が決め、誰が確認するか」が決まっているかどうかです。決まっていないなら、AIガバナンスの記事が整える側の話をしています。
社内ルールの文書としては、生成AIガイドラインとAI利用ポリシーの記事が形を扱っています。
入力してしまった後の話は、別の記事の担当です。情報漏えいの記事が初動を扱っています。
社外にはどこに聞けるのか

社内で決まらないときの行き先も、同委員会自身が用意しています。
ひとつは個人情報保護法相談ダイヤルです。同委員会は、この窓口で受け付けているものを2種類挙げています。
事業者又は行政機関等における個人情報等の取扱いに関する苦情と、個人情報保護法・個人情報保護制度に関する質問です。この記事の場面に近いのは後者のほうです。
同委員会は、相談を電話でのみ受け付けていること、匿名での相談も可能であること、通話は必ず録音されることを、いずれもページに明記しています。
聴き取った内容に応じた対応として、自主的な解決に向けての助言、情報提供としての預かり、あっせんの3つが挙げられています。
ただし、応じない相談も明記されています。
同委員会は、ガイドラインやQ&Aに記載がない相談、個人情報保護法に規定がない相談、個人情報保護法への適法性・違法性の判断を求める相談には応じていないと書いています。
当サイトが可否の判定をしないのと同じ線が、窓口の側にも引かれているということです。
同委員会は、この窓口で対応できない相談については、他の相談窓口等を案内することがあるとも書いています。入口として使える窓口だということです。
もうひとつはPPCビジネスサポートデスクです。こちらは要予約です。
同委員会は、新技術を用いた新たなビジネスモデル等における個人情報保護法上の留意事項等について相談を承っていると書いています。
同ページは、支援できることを2つとして挙げています。個社が検討中の新ビジネスモデルに関する相談と、業界又は複数事業者が共通に抱える論点についての相談です。
手元の1件が既存業務の中の話なら、この2つのどちらにも当たらないことがあります。予約して待ったあとで対象外と分かると、時間だけが減ります。
連絡から面談の実施まで、通常1週間から2週間前後かかるという案内もあります。急ぎの案件では間に合わないので、日程を先に押さえる必要があります。
この2つの使い分けは、同委員会自身が書いています。ビジネスサポートデスクのページには、個人情報保護法の解釈に関する一般的な質問で電話口での回答が必要な方は相談ダイヤルの活用を検討してほしいという案内があります。
なお、いずれも一般的な案内の窓口です。自社の契約や資料を前提にした結論が必要な場合は、社内の法務や顧問弁護士に相談してください。
個人情報と生成AIで押さえることは何か
最後に3つだけ残します。
1つ目は、まず自分がどの立場で読むかを決めることです。個人情報保護委員会の注意喚起は、注意点を読み手の立場ごとに3つに分けて書いています。
2つ目は、担当者が最終判定をしなくてよいということです。ガイドライン自身が、具体例は全ての事案を網羅したものではないと書いています。
3つ目は、手ぶらで相談に行かないことです。製品名とプラン名、情報の中身、利用目的、提供元の文書の確認日を揃えると、相談が一往復で済みます。
社内でどこまで整えればよいか迷う場合は、お問い合わせからご相談ください。
この記事の出典
本文で引いた記述は、次のページと資料を2026年9月18日に開いて確認したものです。
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(別添1・PDF)
- 個人情報保護委員会「OpenAIに対する注意喚起の概要」(別添2・PDF)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」(リーフレット・PDF)
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
- 個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法相談ダイヤル」
- 個人情報保護委員会「PPCビジネスサポートデスク(要予約)」
- OpenAI「Your data」
- Anthropic「Is my data used for model training?」(商用プロダクト向け)
- Google「Generative AI in Google Workspace Privacy Hub」
- Microsoft「Data, Privacy, and Security for Microsoft Copilot」
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