属人化とは?生成AI導入で解けるのは「根拠を外に出せる属人化」まで|残るものと、移る先

生成AIを社内で試すための稟議書に、「属人化の解消」と書く。そんな一行を用意した方も多いのではないでしょうか。
その一行は、たいてい通ります。誰も反対しない言葉です。
引っかかるのは、そのあとです。「AIを入れたら、本当に属人化は解けるのですか」と聞かれます。
調べると、解消の手順は5ステップや7ステップの形でいくつも出てきます。それでも、どこまでが解けてどこからが残るのかは書いてありません。
この記事では、属人化という言葉の意味を確認したうえで、生成AIを入れると何が変わるのか、どこまでが解けて何が残るのか、そして属人化がどこへ移るのかを整理します。
根拠にしたのは、総務省が公開している3つの文書と、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインです。
本記事で開いた国の資料は、AIがやったことを「判断を補助する」と書いていました。補助と代行のあいだに、解けるものと残るものの線があります!
この記事の監修者

AIリスキル株式会社 代表取締役
AIツールギャラリーを運営するAIリスキル株式会社の代表取締役。企業・自治体向けの生成AI研修とAI導入支援を手がけています。
実績: 大阪・関西万博 公式プログラム「AI HEROES COLLECTION」司会進行 / 神戸市デジタル人材育成エコシステム構築事業の運営 / MBS「せやねん!」「よんチャンTV」に生成AIの専門家として出演 / Felo日本初コアアンバサダー / Genspark第1期公式アンバサダー / Skywork公式アンバサダー / AKOOL公式パートナー など
属人化とは何を指す言葉なのか

読み方は「ぞくじんか」です。反対の方向を指す言葉としては、「標準化」や「脱属人化」が使われます。
意味のほうは、特定の人がいないと業務が進まない状態を指す言い方として使われています。
先に限界を書いておきます。この言葉には、意味を定める規格や法令が見当たりません。
本記事で確認した範囲では、公的な文書も語を定義せずに使っています。
たとえば総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」は、ある県の事例の背景として「ナレッジの属人化防止について、問題意識を持っていた」と書いています。
語の説明はありません。説明しなくても通じる言葉として使われている、ということです。
だからこそ、この記事は範囲を絞ります。扱うのは、生成AIを社内に入れる場面での属人化だけです。
「属人化は悪いことだ」という話もしません。意図してそうしている業務もあります。
この記事が答えるのは1つです。自分の会社の属人化のうち、どれがAIで解けてどれが残るのかです。
生成AIを入れると、属人化の何が変わるのか

先に、変わった例を見ておきます。一般論ではなく、数字が公開されている例です。
総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」は、練馬区と中央区が住民税の賦課修正業務で行ったAI実証を載せています。
導入の理由も書かれています。修正を通知書の発送までの短い期間で終える必要があるため、業務効率化やノウハウ継承が大きな課題となっていたという説明です。
AIがやったことは、はっきり書かれています。不整合が検出されたデータを入力として、見直すべき資料と修正方法のレコメンドを出力することです。
そして資料は、その役割を職員の修正要否の判断を補助するものだと書いています。
AIが判断したとは書いていません。ここが後の章まで効いてきます。
作業時間の結果は次のとおりです。練馬区は1,450時間から617時間へ(57.4パーセント削減)、中央区は1,300時間から600時間へ(53.8パーセント削減)と書かれています。
属人化の話として重いのは、時間ではなく次の数値です。
同じ資料は、ベテランの作業スピードを1としたとき、新任が何倍かかっているかを分析しています。
結果は、AI活用前が2.6倍、AI活用後が1.2倍でした。差が縮まっています。
この数値には限定が2つあります。どちらも資料の同じ図に注記として付いています。
1つ目は計測の範囲です。「練馬区において、発生件数の多いボリュームゾーンのエラーを対象に計測」とあります。全業務の平均ではありません。
2つ目は、この比率の読み方そのものです。資料は、AIによる作業時間の短縮効果はベテラン職員にも見られ(練馬区では約29パーセント)、AIなしの「1」とAIありの「1」の時間は異なりますと注記しています。
つまり、ベテランは据え置きで新任だけが速くなった、という話ではありません。基準にしている「1」そのものが前後で違います。
資料はこの結果の読み取りも書いています。ベテランの作業ノウハウが新任に共有されると新任のスキルが向上する効果もある、という説明です。
ただし資料自身が「と考えられます」と留保しています。断定ではありません。
AIで解ける属人化は、どこまでなのか

前の章の事例から、条件が1つ取り出せます。
判断の根拠が、言葉やデータとして外に出せるかどうかです。
練馬区の事例でAIが出したのは、見直すべき資料と修正方法でした。それまでベテランの頭の中にあった「どこを見て、どう直すか」が、画面に出てきたということです。
だから新任の作業が速くなりました。速くなったのは、判断そのものを渡されたからではありません。
判断の材料を渡されたからです。
もう1つ、別の資料から例を挙げます。
総務省の「自治体における生成AI導入状況」は、議会の想定問答の文案作成の例を載せています。生成AIに過去答弁を反映(RAG)させたことで業務効率化が図れているという説明です。
人口5.8万人の団体の例として、150問を超える質問のうち最大96パーセントについて、答弁案の作成や補足資料の準備に生成AIを活用しているとされています。
これも同じ構造です。過去の答弁という、探せば見つかる形で存在していた材料が、探せる形になりました。
過去の文書を参照して答えを出す仕組みそのものは、文書検索AIの記事で扱いました。回答の根拠をたどれるようにするかどうかが、この使い方の鍵になります。
ここまでを整理すると、解ける側の条件は2つです。
1つは、判断の根拠が文書やデータとして残っていることです。残っていなければ、AIに渡すものがありません。
もう1つは、その根拠を見れば、経験の浅い人でも答えに近づけることです。練馬区の数値が示したのはここです。
AIでは解けない属人化は、何に根ざしているのか

残る側は、3つの根に分けられます。
1つ目は、言葉になっていない判断です。
前の章の条件を裏返すと、こうなります。根拠が文書にもデータにも残っていない判断は、AIに渡すものがありません。
「この取引先はこの時期に無理を言ってくる」「この書き方だと現場が動かない」といった類のものです。本人に聞いても、条件の形では出てこないことがあります。
2つ目は、承認と責任です。
総務省と経済産業省が公開している「AI事業者ガイドライン」は、公平性の節で、AIの出力結果が公平性を欠くことがないよう、AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討すると書いています。
同じ箇所は、その際に人間の判断が自動化バイアスに左右されないような対策を講じるべきだと続けて、注記で具体的な対策を参照させています。
自動化バイアスの定義も、同じガイドラインの注記にあります。人間の判断や意思決定において、自動化されたシステムや技術への過度の信頼や依存が生じる現象という書き方です。
参照先の注記の内容が、この章の核心です。
その注記は、AIの評価や判断を人間が承認する際には、人間自身が承認する理由や根拠を独自に考えてから承認すべきことなどが提案されていると書いています。
注記が紹介している提案であって、ガイドライン本体の要求事項ではありません。それでも、意味するところは重いです。
AIの出力を承認するには、承認する理由を自分で考えられる必要があります。
つまり、判断できる力そのものはAIに移りません。承認できる人が社内に1人しかいなければ、その1人への依存はそのまま残ります。
3つ目は、相手との関係性と組織風土です。
同じAI活用・導入ガイドブックは、別の事例の記述として、AIが万能ではなく、ある程度の精度で予測を行い職員の判断を補助するものであることを認識してもらう必要があると書いています。
課題の整理のほうにも、関連する記述があります。同じガイドブックはAI導入の課題として、AIを理解していない関係者や、新しいことへの挑戦を避ける組織風土により庁内調整に苦労するケースを挙げています。
この記述は属人化という語で書かれてはいません。属人化と結びつけるのは本記事の読み取りです。
それでも、組織風土はAIの機能ではありません。誰と誰が話せるか、誰が決めていいのかは、ツールでは変わりません。
AIを入れると、属人化はどこへ移るのか

解ける側に入った業務でも、属人化が消えるとは限りません。場所が移ります。
これは新しい話ではありません。自動化で同じことが起きた先例が、国の文書に書かれています。
総務省の「自治体におけるRPA導入ガイドブック」は、表計算ソフトのマクロについてこう書いています。
マクロ作成・管理が属人的になりがちで、人事異動の際に正しく引き継ぎが行われなかった場合には、自動化した業務の内容がブラックボックスになってしまうことが多々あります、という記述です。
RPAそのものについても、同じ構造の指摘があります。
作成・保守を内製化している場合、担当職員の異動・退職等により内部構造がわからなくなり、メンテナンスができなくなることへの備えが必要だとしています。
さらに踏み込んだ記述もあります。長期にわたって処理を任せきりにしたまま異動や退職があると、いざという時に対応できる職員がいないおそれがあるという指摘です。
生成AIでも、移り先は同じ形になります。
具体的には3つです。どう指示すると使えるものが出るかを知っている人、何を参照させているかを知っている人、設定や権限を触れる人です。
ここで注意が1つあります。推進役を1人決めると、その人に集まりやすくなります。
推進役そのものの設計は、社内AIチャンピオンの記事で扱いました。横断的に支える組織の置き方は、AI CoEの記事にあります。
役割を置くことが悪いという話ではありません。置いたあとで引き継げる形にしているかが、この章の論点です。
同じRPAのガイドブックは、対策も書いています。保守性を高めるための共通のルールを定め、仕様や操作方法を文書として残すことで、ノウハウの継承をしていくことが重要だという書き方です。
自分の会社の属人化は、どちらなのか

ここまでを、4つの問いにまとめます。業務ごとに当ててください。
1つ目は、判断の根拠が文書やデータとして残っているかです。
残っていないなら、AIに渡すものがありません。この場合、先にやることはAIの導入ではなく、根拠を書き出すことになります。
候補の業務を比べられる形に書き出す作業そのものは、業務棚卸しの記事で扱いました。
2つ目は、その根拠を見れば経験の浅い人でも答えに近づけるかです。
近づけるなら、練馬区の事例と同じ形になる可能性があります。近づけないなら、根拠の外にある何かが判断を決めているということです。
3つ目は、承認できる人が複数いるかです。
1人しかいないなら、AIを入れてもその1人への依存は残ります。AI事業者ガイドラインの注記が紹介している提案は、承認する理由を自分で考えてから承認することでした。
4つ目は、指示・参照データ・設定を複数人が触れるかです。
ここまでの3つが「はい」でも、この3つの管理を1人が握るなら、属人化は消えずに場所が移るだけになります。H2-5で見た移り先が、そのままこの問いです。
4つの問いの答えで、業務は3つに分かれます。
AIで解ける業務は、根拠が残っていて、それを見れば答えに近づけて、承認できる人が複数いて、指示・参照データ・設定も複数人が触れる業務です。
AIでは解けない業務は、根拠が言葉になっていない業務か、承認できる人が1人しかいない業務です。
場所が移るだけの業務は、3つ目までは通るものの、4つ目が「いいえ」になる業務です。
何から手をつければいいのか

手をつける順番は、判定の結果で変わります。
根拠が残っていない業務は、AIより先に書き出す工程が要ります。書き出す形については、SOP(標準作業手順書)の記事で扱いました。
根拠が残っている業務は、小さく試せます。このとき見るのは削減時間だけではありません。
経験の浅い人がどこまで近づけたかも見てください。練馬区の実証が測ったのはそこでした。
どちらの場合も、最後に引き継げる形にする工程が残ります。指示の書き方、参照させているデータ、設定を、文書として残すところまでです。
使い続けてもらうための考え方そのものは、AIアダプション(AI活用定着)の記事で扱いました。
最後に、本記事の数値の扱いを書いておきます。
実測値はすべて自治体を対象にした総務省の資料のもので、民間企業の数字ではありません。練馬区の2.6倍から1.2倍という値も、特定の業務の、発生件数の多いエラーを対象にした計測です。
また、人事や労務の取り扱い(配置転換、評価、退職の扱い)については、本記事では可否を判定していません。社内の人事部門と規程を確認してください。
自社の属人化のどこまでが生成AIで解けるのかを整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。
この記事の出典
- 自治体におけるAI活用・導入ガイドブック <導入手順編>(総務省、令和7年12月・第4版、2026-09-18確認)
- 自治体における生成AI導入状況(令和7年度)(総務省、令和8年4月24日版、2026-09-18確認)
- 自治体におけるRPA導入ガイドブック(総務省、令和7年7月、2026-09-18確認)
- AI事業者ガイドライン(第1.2版)(総務省・経済産業省、令和8年3月31日、2026-09-18確認)
- 令和7年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の調査結果の公表(総務省、令和8年4月24日公表、2026-09-18確認)
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