AI企業が学習用に本を裁断・廃棄している。Anthropicの数百万冊は確定、希少本破壊はまだ噂

AI企業が大量の本を裁断してスキャンし、学習データにしている。しかも希少本まで破壊されているらしい。そんな話題が7月27日ごろからX(旧Twitter)で拡散し、イーロン・マスク氏が「SpaceXのAIチームには背表紙を切らずにスキャンさせる」と反応する騒ぎになっています。発端の投稿は、404 Mediaの報道(7月21日)、Washington Postの調査報道(1月27日)、Anthropicの著作権訴訟などをまとめたものでした。
ただ、いちばん拡散した「希少本が裁断されている」の部分だけは、まだ誰も確かめられていません。この記事では、確定している事実と、新しく分かったこと、まだ懸念にすぎないことを分けて整理します。
この記事の監修者

AIリスキル株式会社 代表取締役
AIツールギャラリーを運営するAIリスキル株式会社の代表取締役。企業・自治体向けの生成AI研修とAI導入支援を手がけています。
実績: 大阪・関西万博 公式プログラム「AI HEROES COLLECTION」司会進行 / 神戸市デジタル人材育成エコシステム構築事業の運営 / MBS「せやねん!」「よんチャンTV」に生成AIの専門家として出演 / Felo日本初コアアンバサダー / Genspark第1期公式アンバサダー / Skywork公式アンバサダー / AKOOL公式パートナー など
Anthropicの破壊的スキャンは確定している
内部文書に書かれていた計画
ここは訴訟資料で確定しています。Washington Postが1月に報じた非公開解除の内部文書には、こんな記述がありました。
Project Panamaは、世界中のすべての本を破壊的にスキャンする取り組みだ
Anthropicは2024年に元Google Booksの提携責任者を雇い、体制を作りました。流れはこうです。
- 中古の本を合法的に大量購入する(ニューヨークの老舗古書店などから)
- 背表紙を裁断し、高速スキャナーでデジタル化する
- 原本は廃棄する。処理能力は1日あたり最大1万1,000冊とWashington Postが報じている
裁判所が引いた線
2025年6月の判決では、合法的に購入した紙の本を裁断スキャンしてAI学習に使うことがフェアユース(公正利用)と判断されました。学習利用の変容性に加え、紙からデジタルへの置き換えにとどまり追加の配布をしていない点などが考慮されています。一方で海賊版のダウンロードは認められず、Anthropicは作家側と15億ドルで和解。この和解は今年7月20日に裁判所が最終承認しました。Authors Guildによると、対象は約48万作品、申請率は91.3%にのぼります。
AIに本を売る仲介業者が現れていた
1回の注文が最大100万冊
7月21日の404 Mediaの報道で分かったのは、書籍データベース会社のISBNdbが、AI企業向けに本を大量調達するビジネスへ転換していたことです。報道によると、1回の注文は1,000冊から最大100万冊。案件には厳しい秘密保持契約が付き、買い手のAI企業名は明かされないとされています。同社のサイトには「『AI企業が200万冊を破壊』は同情を集める見出しではない」という率直すぎる文言まであったと報じられています。
狙われるのは2022年より前の本
なぜ紙の本なのか。ISBNdbは、生成AIが普及する前に書かれた文章を、AI生成テキストの混入がないデータとして売り込んでいると報じられています。AIが生成した文章を無差別に学習へ混ぜ続けると品質が劣化していく現象はNature掲載の研究でも示されており、AIの影響を受けていない人間の文章の価値が上がっている、という構図です。
希少本の破壊はまだ懸念の段階
確認できるのは古書店の証言まで
拡散した投稿の中でいちばん強い「現存わずかな希少本が裁断されている」という部分は、現時点では裏づけがありません。確認できるのは、欧州の古書店主たちの証言です。6月のオランダメディアの報道では、ある古書店への発注が週20冊未満から数百冊へ急増し、共通点は「ISBNが付いていること」だけ。在庫には希少本や絶版本が多く、破壊されれば市場に残る数少ない現存コピーかもしれない。あくまでそういう懸念として語られています。
拡散した「実例」は実例ではなかった
投稿で流れた「18世紀の植物学書の最後の3冊」という例も、投稿者が仮定として書いたレトリックで、実例ではありません。実際に希少本が裁断されたと特定された事例は、確認できた範囲ではまだ存在しません。
なぜ破壊するのか
今回の判決では、購入した紙の本を廃棄してデジタル版に置き換えた点について、追加の配布をしない形式の変換にとどまるとしてフェアユースが認められました。この構図を捉えて、原本を破壊したほうが法的に安全になる動機づけを生むという批判も出ています。ただし、判決そのものが「破壊すれば適法」と定めたわけではありません。
文化財としての保存は著作権法の守備範囲の外にあり、少なくとも今回の米国の訴訟で希少本の破壊そのものが問われる場面はありませんでした。ここが、この問題がくすぶり続ける理由です。
これは使う側にも関係がある
AI企業が本の現物を奪い合う理由は、突き詰めるとモデルの品質競争です。AI生成テキストに汚染されていない学習データをどれだけ持っているかが、これからのモデルの差になっていく。ChatGPTやClaudeのようなツールを選ぶとき、裏側ではこういうデータの取り合いが起きている、という文脈は知っておいて損はありません。
この記事の出典
- Washington Post (2026年1月27日)
- 404 Media (2026年7月21日)
- NL Times (2026年6月25日)
- Authors Guild「和解最終承認」(2026年7月20日)
- 発端のX投稿 (2026年7月27日)
「希少本が実際に裁断された」と特定された事例は本記事の時点で確認されていません。実例の報道や各社の公式コメントが出た場合は、この記事に追記します。
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