コンパイラ「GCC」が約15行を超えるAI生成コードの受け入れ拒否を決定。理由は著作権の空白

C言語やC++のプログラムを動く形に変換する定番コンパイラ「GCC」の運営委員会(steering committee)は2026年7月29日、AI(大規模言語モデル)が生成したコードを含む「法的に重要な貢献」を受け入れない方針を正式に採択しました。目安は「およそ15行」で、これを超えるAI生成コードは原則拒否となります。方針の全文はGCC公式サイトのAIポリシーページで公開され、委員のDavid Edelsohn氏が開発者メーリングリストで採択を発表しています。
GCCはLinuxをはじめ数多くのソフトウェアのビルドを支えてきた、オープンソース界の土台のような存在です。AIにコードを書かせるのが当たり前になりつつある今、なぜ老舗プロジェクトは受け入れ拒否を選んだのでしょうか。鍵は「AIが書いたコードの著作権は誰のものか、まだ決まっていない」という空白にあります。
この記事の監修者

AIリスキル株式会社 代表取締役
AIツールギャラリーを運営するAIリスキル株式会社の代表取締役。企業・自治体向けの生成AI研修とAI導入支援を手がけています。
実績: 大阪・関西万博 公式プログラム「AI HEROES COLLECTION」司会進行 / 神戸市デジタル人材育成エコシステム構築事業の運営 / MBS「せやねん!」「よんチャンTV」に生成AIの専門家として出演 / Felo日本初コアアンバサダー / Genspark第1期公式アンバサダー / Skywork公式アンバサダー / AKOOL公式パートナー など
何が決まったのか
ポリシーの中心は次の一文です。
GCCの方針は、LLMが生成した内容を含む、またはそこから派生した、法的に重要ないかなる貢献も受け入れないことである(原文: the GNU Compiler Collection (GCC) policy is to decline any legally significant contributions which include LLM-generated content)
「法的に重要」かどうかの目安は、GNUプロジェクトの保守ガイドラインが著作権の発生ラインとする「およそ15行を超えるコードや文章」です。ただし、AIの利用そのものを締め出すわけではありません。
- 15行以下の小さな貢献は、コミットメッセージに「Assisted-by:」タグを付けてAIの関与を明示すれば受け入れられます
- テストケースは例外で、15行を超えてもAI生成を認めます
- 調べものや既存コードの理解、デバッグの相談にAIを使うのは自由です。生成物を貢献に含めなければ問題ありません
あわせて「LLMがプロジェクトのリポジトリへコードをコミットしてはならない」と明記され、最終判断は必ず人間が担う建て付けになっています。
理由は著作権の空白
AIが生成したコードは誰の著作物なのか、そもそも著作権が発生するのかは、法的にまだ固まっていません。権利関係の不明なコードを取り込み続ければ、オープンソースを支えるライセンスの前提が揺らぎかねません。開発情報サイトのLWNは今回の決定を、不確実なうちは保守的に対応するという考え方を反映したものだと伝えています。
もっとも、オープンソース界の足並みがそろっているわけではありません。LWNによると、システム基盤ソフトのsystemdはこの発表の直前に、AI関与を示すタグの必須要件をむしろ廃止したとされます。
AIでコードを書く人にどう関係するのか
AIツールギャラリーの視点でいえば、これは一部の開発者だけの話ではありません。GitHub CopilotやClaude CodeのようなAIコーディングツールで書いたコードは、書いた本人でさえ「どこまでが自分の著作物か」を説明しにくいものです。今回の決定は、AIでコードを書くこと自体の是非ではなく、コードを外に出すときの出どころの説明責任を問うものと読めます。
今できることを1つ挙げるなら、オープンソースに貢献している人は、送り先のプロジェクトがAI利用のルールを定めていないか、貢献ガイドを確認してから提出することです。会社でAIコーディングツールを使っている人も、成果物を社外に出す場面に備えて、権利の扱いを社内ルールで確認しておくと安心です。
わかっていないことと今後
わかっていないこともあります。AI生成コードの著作権の扱いは制度の場でまだ確定しておらず、GCCの判断が業界の標準になるかは見通せません。またポリシー文書には、貢献がAI生成かどうかを見分ける仕組みまでは書かれておらず、運用は貢献者の申告に頼る形とみられます。GCC自身もこの方針を「遅くとも2027年の初めに見直す」としており、恒久的な禁止と決まったわけではありません。続報が出たらこの記事に追記します。AIとの距離を次に明文化するのは、どのプロジェクトでしょうか。
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