Microsoft 365 Copilot活用事例|日本初のグローバル全社導入、住友商事9,000人の実例
Microsoft 365 Copilotの導入事例を住友商事の実例で解説。日本企業初のグローバル全社導入(約9,000人)から、月間アクティブ率90%・年間12億円のコスト削減効果に至るまでの過程がわかる。自社で試すときの始め方つき。

Microsoft 365 Copilotは、企業への導入が広がっている生成AIツールです。この記事では、日本マイクロソフトの公式事例と、住友商事自身が発表した情報をもとに、実際にどこまで使われ、どんな成果が出ているのかを解説します。
住友商事は2024年4月、日本企業として初めてMicrosoft 365 Copilotを海外グループ会社を含むグローバル全社員(約9,000人)へ一斉導入しました。導入から1年半が経った2025年10月時点で、月間アクティブユーザー率は約90%に達し、コスト削減効果は年間約12億円と公表されています(2024年時点のマイクロソフト公式資料では「Copilot for Microsoft 365」という表記も使われていますが、本記事では現在の呼び方である「Microsoft 365 Copilot」に統一します)。
この記事では、公開情報をもとに、住友商事がどのようにして全社員へCopilotを浸透させ、実際にどんな業務が変わったのかを解説していきます。
住友商事で実際に何が変わったか
規模の大きさだけを見ると「大企業だからできたこと」に見えるかもしれません。ですが、実際の歩みを見ると、最初から9,000人に配ったわけではないことがわかります。
全社導入までの1年半、300ライセンスの検証から始まった
住友商事がCopilotに触れ始めたのは2023年9月です。実力を検証するための先行検証プログラム(EAP)に参加し、300ライセンスの提供を受けました。内訳は海外ヘッドクォーターに100ライセンス、残り200ライセンスは経営層やIT投資の決定権を持つIT戦略委員会、社内のローコード開発コミュニティ、IT企画推進部などに配布されています。採用の決定権を持つ人たちに先に触ってもらい、次のステップである全社導入に向けた感触をつかむ狙いがありました。
同年11月、マイクロソフトが主催する年次イベント「Microsoft Ignite」に参加したことで、全社導入に向けた考え方が大きく変わったと、IT企画推進部の浅田和明氏は振り返っています。「Copilotに対する投資の規模や、パートナー連携による広がりの説明を聞いて、そのポテンシャルの高さを改めて認識しました。これから、できることがどんどん増えていく中で、今の機能だけを評価しても意味がないのではないか。Copilotをインターフェースとして業務変革が起きると感じました」
EAPでライセンス配布を受けたユーザーへのアンケートでは、「満足」との回答が7割を占めました。この結果と、Igniteで得た手応えを踏まえ、住友商事は全社導入を前向きに検討します。ここで論点になったのがライセンス数でした。「使いたい人に焦点を当て、効果が見えたら拡大していく」という段階的な方法も選択肢の一つでしたが、経営層の判断は異なっていたと、デジタル戦略推進部長の塩谷渉氏は明かしています。「使わない人たちにこそ、自身の生産性や創造性を高めるために使ってもらわなければならない。全員が使いこなし、飛躍的かつ持続的に成長する会社になる。目先の効果ではなく、目指す企業像を実現するためにCopilotは必要だ、というのが経営層の強い思いでした」
そして2024年4月、住友商事は自社と海外ヘッドクォーターの全従業員・派遣スタッフに向けて8,800ライセンスを配布し、グローバル全社導入に踏み切りました。検証段階のツールとしては異例なことに、導入前には会長以下約30人の経営層に対して1人30分のハンズオンも実施しています。「出張で長時間飛行機に乗っている間にたまったメールをCopilotが要約してくれる」といった、経営層自身の業務に合わせたシナリオを用意したことで、要約機能のメリットが実感を伴って伝わり、導入への前向きな意見が多く出たといいます。
現場での実例、森林資源事業ユニットの場合
全社導入したからといって、現場で自然に使われるとは限りません。住友商事の森林資源事業ユニットは、この壁に正面から向き合った部署の一つです。
このユニットは、植林・育林・伐採から木材加工、製紙・燃料用チップやペレットのトレードまでを手がけており、幅広い年齢層からなる約50名が所属しています。業界慣習として昔ながらのやり方が根づいていることと、ITリテラシーの個人差が大きいことが、Copilot活用における課題でした。
きっかけを作ったのは、個人的に生成AIに関心を持ったメンバーの高井裕子氏です。社内の「Copilot Champion」制度に手を挙げ、全社向けのCopilotセミナーに参加するうちに、「ユニット全体の効率化や事業成長に役立つ」という確信を深めていったといいます。同じくチャンピオンである牟田和樹氏とともに、ユニット内での活用を進める動きが始まりました。
具体的な施策としては、2024年12月に全員参加必須の「基礎編」と、自由参加の「応用編」という2回の研修を実施。2025年3月には、ユニット全員が一堂に会する合宿を開き、それまでのグループワークの成果を発表する場を設けています。合宿では「契約書の確認」「購読物の要約」「顧客情報の共有・検索効率化」といったアイデアが挙がりました。特に契約書は長期契約が多く分厚くなりがちなため、必要な箇所の抽出や、新旧契約書の差異抽出にCopilotを使うアイデアが出たといいます。
その効果について、高井氏は次のように話しています。「契約書の比較や決算書などの分析ですね。従来は数時間かかっていた作業が30秒ほどで完了することで、タイムマネジメントが容易になり、お客様対応に時間をかけられるようになりました」。合宿後は、中心メンバーによる「DXワーキンググループ」が発足し、約2週間に1度集まって、情報の格納ルールづくりなど本格運用に向けた検討を続けています。
同様の変化は他部署でも起きています。日経クロステックで浅田氏自身が紹介している例では、不動産事業の若手社員が、物件リストの表記揺れ(都道府県名の欠落や古い物件名など)を1件ずつWebサイトで確認して修正していた作業を、Copilot Chat for Web(Web検索を利用するCopilot機能)で一度に処理できるようにし、1時間以上かかっていた業務を5分程度まで縮めています。経理部門の管理職が、部下へ依頼する前にCopilotと内容を整理する「壁打ち」に使う例や、移動中に音声で話した内容をCopilotが自然な文章に整えてくれる「音コパ」という使い方も紹介されていました。
なぜここまで浸透したのか
住友商事の事例を見ていくと、浸透の起点は生成AIの性能そのものよりも、「誰にライセンスを配るか」という経営判断にあったことがわかります。
多くの企業でありがちなのは、「使いたい人・使いこなせそうな人から先に配る」という段階的な進め方です。これは合理的に見えますが、住友商事の経営層はあえて別の道を選びました。全従業員・派遣スタッフに一律で8,800ライセンスを配布し、「使わない」という選択肢自体を最初から狭めたのです。
この判断を支えたのが、Copilotの位置づけです。住友商事は生成AI活用を2つの観点で進めていました。一つは事業戦略単位ごとに強みを強化する「バーティカル(垂直)」の取り組みで、特定の業務に特化したAzureの生成AI基盤を使います。もう一つが、従業員が毎日使うMicrosoft 365アプリに組み込まれた「ホリゾンタル(水平)」の取り組みで、ここにCopilotが位置づけられています。特定の専門部署だけでなく、全社員が日常的に触れるメールやTeamsに生成AIを組み込むことで、一部の得意な人だけでなく全員の底上げを狙う設計です。
もう一つの工夫が、使い始めるハードルを下げる仕組みです。Copilotへの指示文(プロンプト)には慣れが必要で、ゼロから作るのは負担が大きいという課題がありました。そこで住友商事は、業務のユースケースごとにプロンプトのテンプレートを作成し、コピーして貼り付けるだけで結果が出せる状態を整えています。このテンプレート共有アプリ自体も、IT企画推進部の荻野雄輔氏がCopilotに「こういうことがしたいから、コードを出してください」と指示して開発したものだといいます。ツールを使う仕組みそのものを、そのツールで作るという循環が生まれている点は、この事例らしい特徴です。
大きくなっても運用が破綻しない理由
9,000人規模で一斉に使い始めれば、「本当に効果が出ているのか」「使われないまま放置されていないか」という不安が当然出てきます。住友商事はこの点についても、具体的な仕組みを用意しています。
効果を数字で追う仕組み
住友商事は、従業員8,800人へのアンケートと、Microsoft Viva Insights(従業員の働き方を可視化するツール)による定量測定を組み合わせて、効果を継続的に把握しています。2025年10月時点で公表されている数字は、月間アクティブユーザー率が約90%、コスト削減効果が年間約12億円というものです。
この12億円という数字には、公式サイト側の注記があります。アンケートをもとに割り出した「1アクションあたりの平均削減時間」に「アクション回数」を掛け、さらに人件費を掛けて算出したものだといいます。つまり、実際の会計上の支出削減額そのものではなく、アンケートベースの推計であるという前提を押さえておく必要があります。また、住友商事の発表では、2024年12月時点の試算としても、2025年10月時点の実績としても、同じ「年間約12億円」という表現が使われており、この間にどれだけ伸びたのかは公開情報の中では明示されていません。ライセンス単価や契約条件といった価格面の詳細も、公開情報には含まれていません。
それでも、担当者自身がこの数字に慢心していない点は注目に値します。浅田氏は「社内での月間アクティブユーザーは90%に達していますが、私個人としては、この数字に満足していません。究極的には、Copilotを活用できる人の月間アクティブユーザー数は、100%になるべきだと考えています」と話しており、数字を出して終わりにせず、次の目標に変換する運用を続けていることがうかがえます。
チャンピオン制度で温度差を埋める
もう一つの支えが、「Copilot Champion」というアンバサダー制度です。「Copilotが好き」「業務効率化を実現したい」「組織の変革を後押ししたい」といった前向きな思いを持つ社員が、自発的に手を挙げて就任する役割で、各現場でCopilotの認知拡大や活用を後押しし、IT企画推進部と一般社員をつなぐ橋渡し役を担っています。
先に紹介した森林資源事業ユニットの高井氏・牟田氏も、このチャンピオン制度から動き始めた例です。全社一律の研修や動画だけでは埋まりにくい現場ごとの温度差を、現場に一番近い立場の社員が橋渡しすることで埋めていく設計になっています。事業ごとに業務内容が大きく異なる住友商事のような会社では、全社共通の施策と、現場発の施策を両輪で回すことが、規模が大きくなっても運用を破綻させない鍵になっているようです。
何から始めればいいか
ここまで見てきたのは、9,000人・年間12億円という規模の話です。ただ、自社で試すのに、その規模を最初から目指す必要はありません。
住友商事自身も、最初から全社導入したわけではなく、2023年9月の300ライセンスによる検証プログラムから始めています。経営層に対しても、いきなり全社展開を説いたのではなく、「出張中にたまったメールを要約する」という、具体的で身近な業務シナリオを見せることから始めていました。
自社で試す場合も、同じ順番が現実的です。すでにMicrosoft 365を契約している場合、まずは一部署・一部門でCopilotのライセンスを試し、日々の業務の中で発生するメールの要約や会議のまとめ、資料の壁打ちといった、成果がわかりやすい作業から効果を確認するところから始めるとよいでしょう。個人やチーム単位で使える範囲や現在の料金プランは、Microsoft 365 Copilotの詳細ページで確認できます。
まとめ: 9,000人規模の実績が示すこと
Microsoft 365 Copilotが「大企業でなければ使いこなせないツール」ではないことは、住友商事の歩みが示しています。同社も最初から9,000人に配ったわけではなく、300ライセンスの検証、経営層への具体的なシナリオ提示、そして「使わない人にこそ使ってもらう」という決断を経て、今の規模にたどり着きました。
試す前に、次の点を確認しておくと迷いません。
- いきなり全社展開を目指すのではなく、小さな検証から始めようとしているか
- 経営層や現場に説明するとき、機能の説明ではなく、身近な業務シナリオで見せられているか
- 効果を測る手段(アンケート・利用ログなど)を、導入前から決めているか
- 最初に相談できる社内の1人を決められているか(チャンピオン的な存在)
Microsoft 365 Copilotのような生成AIツールを自社の業務にどう組み込めばいいか、どの部署から試すのが現実的かを含めて相談したい場合、AIリスキル株式会社では生成AIの導入支援を月5万円〜承っています。「何から試せばいいかわからない」「小さく始めて、うまくいったら広げたい」といったご相談は、お気軽にどうぞ。
この記事の出典
- 住友商事が日本企業初の Copilot for Microsoft 365 をグローバル全社導入。従業員一人ひとりの生産性・創造性を向上し持続的成長を実現(Microsoft Customer Stories、2024年8月20日)
- コスト削減効果は年間約12億。住商の「生成AI活用」最前線(住友商事公式オウンドメディア「Enriching+」、2025年11月4日)
- 「住友商事が年間12億円削減」「大和総研が業務効率化に成功」——AIで成果を挙げられた共通点とは(ITmedia ビジネスオンライン、2025年4月22日)
- 全社員にMicrosoft 365 Copilotを導入した住友商事、「チャンピオン」のAI活用術(日経クロステック、2025年7月14日)
- Copilot for Microsoft 365 は「使わない人にこそ使ってもらう」グローバル全社導入の真の狙いとは(日経ビジネス電子版 Special、2024年6月27日)
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