Azure OpenAI Service活用事例|パナソニック9万人が使う社内AI「PX-GPT」はこうして生まれた

Azure OpenAI Serviceは、OpenAIのモデルをAPIとして呼び出し、自社専用のシステムを組み立てるための基盤です。パナソニックホールディングスはこれを使って社内AIアシスタント「PX-GPT」を内製し、2ヶ月足らずで国内約9万人が使える状態にしました。
既製サービスと内製のどちらを選ぶかは、会社の規模では決まりません。自社固有の要件が既製の設定範囲で足りるか、社内に先行して動いている実例があるか、作った後の運用を続けられるか。パナソニックはこの3つが揃っていました。
この記事では、母体になったパナソニック コネクトのConnectGPTから、PX-GPT、現在のPX-AIへの流れを追います。読み終えると、内製という選択肢が自社に合うかを判断できます。
記事の最後には、自社で着手する業務を選ぶためのワークシートもご用意しています!
この記事の監修者

AIリスキル株式会社 代表取締役
AIツールギャラリーを運営するAIリスキル株式会社の代表取締役。企業・自治体向けの生成AI研修とAI導入支援を手がけています。
実績: 大阪・関西万博 公式プログラム「AI HEROES COLLECTION」司会進行 / 神戸市デジタル人材育成エコシステム構築事業の運営 / MBS「せやねん!」「よんチャンTV」に生成AIの専門家として出演 / Felo日本初コアアンバサダー / Genspark第1期公式アンバサダー / Skywork公式アンバサダー / AKOOL公式パートナー など
パナソニックで実際に何が作られたのか
ノーコードでアプリを組み立てるタイプのツールとの違いは、Microsoft Azure上でOpenAIのモデルをAPI(あらかじめ用意された機能を、自社のシステムから呼び出して使う仕組みのことです)として呼び出し、自社専用のシステムを一から組み立てる点にあります。
発表は2023年4月14日です。社内AIアシスタントの名称は「PX-GPT」で、現在は「PX-AI」に変わっています。
同年7月には中国・欧州を除く海外拠点の約8万人にも展開を広げ、8月にはAIエンジンをGPT-4へ切り替えています。
2ヶ月足らずで全社展開した「PX-GPT」
母体になったのは、パナソニック コネクトが2023年2月17日から社内で運用していた独自の生成AIチャットツール「ConnectGPT」です。
パナソニックホールディングスはこれをベースに全社版の環境を構築し、同年4月14日には国内のグループ社員約9万人が使える状態にしました。ConnectGPTの運用開始から2ヶ月足らずでの全社展開です。
技術的には、日本マイクロソフトが提供するパブリッククラウド「Microsoft Azure」上のAzure OpenAI Serviceを使い、OpenAIのGPT-3.5をベースにした法人向けAPIを呼び出す形で構築されています。
入力した情報が二次利用されたり第三者に提供されたりしない仕様にしたうえで、一定期間を過ぎたら入力情報を消去する設計にしている点も公表されています。
英語での質問にも高い精度で答えられる自動翻訳機能も備えており、海外拠点への展開を見据えた設計だったことがうかがえます。
この展開は、パナソニックグループが掲げる経営改革「Panasonic Transformation(PX)」の一環として位置づけられています。
「IT変革」「オペレーティング・モデル変革」「カルチャー変革」という3つの階層で改革を進めるなかで、PX-GPTはIT変革を支える具体的な施策のひとつでした。
名称変更とGPT-4導入で進化した「PX-AI」
全社展開から1ヶ月半ほどで、体制面の変化がありました。2023年6月1日、サービス名は「PX-GPT」から「PX-AI」に変わり、開発・運用体制も強化されています。
それまでグループ3社の少人数体制で運営していたところを、外部企業と連携する体制に切り替えました。
その後の展開も速いペースで続きます。7月13日には中国・欧州を除く海外拠点の社員約8万人にも対象を広げ、8月1日にはAIエンジンをOpenAIの最新モデルだったGPT-4に切り替えました。
パナソニックホールディングスが8月7日に発表した内容によると、GPT-4への切り替えによって処理能力と回答精度が向上し、質問・回答で扱える最大文字数も数倍に拡張されています。
将来的には、社外秘情報や個人の役割に応じた回答ができる仕組みへの発展や、既存の業務アプリとの連携も検討するとしています。
日経ビジネスの報道によると、2024年6月時点でPX-AIは年間利用400万件に達したとされ、同年5月には部門をまたいで活用事例を共有するコミュニティ機能も構築されています。
国内9万人・海外8万人という規模に見合う使われ方が、その後も続いていたことがうかがえます。
ここまでの流れを時系列で整理すると、次のようになります。
| 時期 | できごと | |---|---| | 2023年2月17日 | パナソニック コネクトが独自の生成AIチャットツール「ConnectGPT」の運用を開始 | | 2023年4月14日 | パナソニックホールディングスが全社版「PX-GPT」を国内グループ社員約9万人へ展開開始 | | 2023年6月1日 | 「PX-GPT」を「PX-AI」に改称し、開発・運用体制を少人数体制から外部連携体制へ強化 | | 2023年7月13日 | 中国・欧州を除く海外拠点の社員約8万人にも展開を拡大 | | 2023年8月1日 | AIエンジンをGPT-4に切り替え | | 2023年8月7日 | GPT-4導入をプレスリリースで発表 | | 2024年5〜6月(報道) | 部門間で活用事例を共有するコミュニティ機能を構築、年間利用400万件と報じられる | | 2025年7月(報道) | 母体のパナソニック コネクト独自システム「ConnectAI」で年間約45万時間の業務時間削減、月間利用率49.1%と報じられる(PX-AI本体とは別システムの実績) |
なぜAzure OpenAI Serviceでの内製を選んだのか
生成AIを社内に広げる方法は、ひとつではありません。
Difyのようなノーコードツールで現場が自分たちのアプリを組み立てる方法もあれば、Microsoft CopilotやChatGPT Enterpriseのように、ベンダーが用意したサービスをそのまま契約する方法もあります。
パナソニックが選んだのは、そのどちらでもなく、Azure OpenAI ServiceのAPIを使って自社専用のシステムを一から組み立てる、内製という選択肢でした。
内製が意味を持つのは、既製品の設定範囲を超えるカスタマイズが必要になる場面です。「入力情報を二次利用させない」「一定期間で自動的に消去する」といったセキュリティ仕様は、パナソニックが自社の要件に合わせて設計したものです。
自動翻訳機能を組み込んで海外拠点への展開を見据えた設計にできたことも、AIエンジンの入れ替え(GPT-3.5からGPT-4へ)を自社の判断で決められたことも、API単位で組み立てる内製だからこそ実現しやすい部分です。
既製のチャットサービスを契約するだけでは、ここまで自社の要件に寄せた作り込みは難しくなります。
もうひとつの理由は、母体になる資産がすでに社内にあったことです。
パナソニック コネクトが独自に運用していたConnectGPTという実例があったからこそ、ホールディングスはゼロからではなく、実績のある仕組みを土台にグループ全体へ広げるという進め方ができました。
内製は自由度が高い分、何もないところから作るのは負担が大きくなりがちですが、社内のどこかにすでに小さな実践があれば、その土台を全社版に育てるという道筋が現実的になります。
9万人規模でも運用が破綻しない理由
内製は自由度が高い一方、「そこまで手間をかけて、本当に安全に運用できるのか」という不安が伴います。パナソニックの展開からは、この不安に対する具体的な対策が見えてきます。
セキュリティ設計を自社でコントロールする
前述のとおり、PX-GPT/PX-AIは入力情報の二次利用や第三者提供をしない仕様にしたうえで、一定期間を過ぎた入力情報を消去する設計にしています。
これは既製サービスの標準設定に頼るのではなく、自社の情報管理方針に合わせてAPI呼び出しの設計段階で組み込んだものです。
内製だからこそ、社内のセキュリティ基準をそのままシステムの仕様に落とし込める点が、9万人規模という利用者数に耐える設計の土台になっています。
少人数体制から外部連携体制への強化
もうひとつの対策が、運用体制そのものの見直しです。2023年6月の名称変更に合わせて、パナソニックはそれまでの少人数体制から、外部企業と連携する体制へと運用を強化しました。
全社展開の直後というタイミングで体制を見直したことからは、「まず作って動かし、利用が広がった段階で運用体制を追いつかせる」という段階的な進め方だったことが読み取れます。
作ってから体制を固める順番自体は、内製にかぎらず社内システムを広げる際の現実的な進め方といえます。
なお、ここで二つ整理しておきたいことがあります。
ひとつは時点の違いです。ここまで取り上げてきたPX-GPT/PX-AIの一次情報は、主に2023年に発表されたものです。
2026年現在から見ると3年ほど前の内容にあたり、その間にどこまで機能や運用が発展しているかは、今回確認できた公開情報の範囲では限定的にしかたどれませんでした。
もうひとつは、2025年7月に日本経済新聞が報じた「年間約45万時間の業務削減」「月間利用率49.1%」という数値についてです。
この数値はPX-AIそのものではなく、母体となったパナソニック コネクトが独自に運用する「ConnectAI」(旧ConnectGPT)の実績であり、グループ全体版のPX-AIとは別のシステムの数字である点に注意が必要です。
何から始めればいいか
9万人規模への展開は、いきなり目指す必要のあるゴールではありません。Azure OpenAI Serviceを使った内製を検討する場合、まず洗い出しておきたいのは次のような点です。
- 社内のどこかに、すでに小さな実践や個別部署でのAI活用の実例がないか。パナソニックの場合、パナソニック コネクトのConnectGPTという先行事例が全社展開の土台になりました
- 入力情報の二次利用の可否、保持期間、消去のタイミングなど、自社として譲れないセキュリティ要件は何か。既製サービスの標準設定で足りるのか、内製でしか実現できない要件があるのかを先に切り分けておくと、内製とノーコード・既製サービスのどちらが自社に合うかを判断しやすくなります
- 開発・運用を自社の少人数だけで抱えるのか、外部企業と連携する前提で体制を組むのか。パナソニックは全社展開後に体制を見直しており、最初から完璧な体制を用意できなくても、利用の広がりに合わせて後から強化する進め方も選択肢になります
なお、Azure OpenAI Serviceの利用料金や、パナソニックが実際にどのような契約形態・体制で開発を進めたかといった詳細は、今回確認した公開情報の範囲では明らかになっていません。
導入を具体的に検討する段階では、Microsoft側の窓口や自社のIT部門を通じて個別に確認する必要があります。
まとめ: 内製という選択肢は、既製品の代わりではなく上に乗せる発想で検討する
パナソニックグループの事例が示しているのは、生成AIを社内に広げる方法として、ノーコードツールや既製サービスのほかに、Azure OpenAI Serviceを使った内製という選択肢が実際に大企業規模で機能しているということです。
しかもゼロから作ったわけではなく、パナソニック コネクトという社内の先行実践を土台に、全社版へと育てる進め方でした。
Azure OpenAI Serviceでの内製を検討する前に、次の点を確認しておくと判断がしやすくなります。
- 社内にすでにある小さなAI活用の実践を、土台として使えないか洗い出したか
- 既製サービスの標準設定では満たせない、自社固有のセキュリティ要件を切り分けたか
- 開発・運用を自社だけで抱えるか、外部連携を前提にするかを検討したか
- 利用料金や契約形態など、非公開の詳細を個別に確認する段取りができているか
生成AIを自社のシステムにどう組み込むか、ノーコードツール・既製サービス・内製のどれが自社に合うかを含めて相談したい場合、AIリスキル株式会社では生成AIの導入支援を行っています。「内製するべきか、まず既製サービスで試すべきか判断がつかない」といったご相談も、お気軽にどうぞ。
この記事の出典
- AIアシスタントサービス「PX-GPT」をパナソニックグループ全社員へ拡大 国内約9万人が本格利用開始(Panasonic Newsroom Japan、2023年4月14日)
- AIアシスタントサービス「PX-AI」にOpenAI(米国)の最新モデル「GPT-4」を導入 ~AI機能強化により、事業の競争力強化へ~(Panasonic Newsroom Japan、2023年8月7日)
- AIアシスタントサービス「PX-AI」にOpenAI(米国)の最新モデル「GPT-4」を導入 ~AI機能強化により、事業の競争力強化へ~(パナソニックグループ、PR TIMES、2023年8月7日)
- パナソニックHDが社内向け対話AIの開発・運用を強化、社外向けサービスも視野(日経クロステック、2023年6月)
- パナソニック、年間利用400万件 生成AI本格導入1年 「まず使う」が知恵生む(日経ビジネス電子版、2024年6月21日)
- パナソニックコネクト、生成AIツールを自社導入 年間45万時間の業務削減(日本経済新聞、2025年7月7日)
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執筆メモ: 出典の詳細と時点の注意(本文非掲載、内部記録用)
一次情報(パナソニック公式発表): - AIアシスタントサービス「PX-GPT」をパナソニックグループ全社員へ拡大 国内約9万人が本格利用開始(Panasonic Newsroom Japan、2023年4月14日)。WebFetchで本文取得済み。ConnectGPTベース・Azure OpenAI Service・GPT-3.5・二次利用なし・一定期間で消去・自動翻訳・PX戦略の3階層、を確認 - AIアシスタントサービス「PX-AI」にOpenAI(米国)の最新モデル「GPT-4」を導入 ~AI機能強化により、事業の競争力強化へ~(Panasonic Newsroom Japan、2023年8月7日)。WebFetchで本文取得済み。GPT-4導入日(8月1日)・海外拠点拡大(7月13日・約8万人)・処理能力/精度向上・文字数拡張・今後の展望(社外秘対応・業務アプリ連携)を確認。2026-08-15、review.mdの指摘を受けて出典欄のタイトルにサブタイトルを補完 - 同内容のPR TIMES版。WebFetchで本文取得済み、上記と同一内容を相互確認。2026-08-15、出典欄のタイトルにサブタイトルを補完(URLは元のまま)
二次情報(報道、WebSearch/WebFetchで確認。要検証レベルとして扱う): - パナソニックHDが社内向け対話AIの開発・運用を強化、社外向けサービスも視野(日経クロステック)。「PX-GPT」から「PX-AI」への名称変更日(2023年6月1日)、少人数体制→外部連携体制への強化、社外向けサービス検討(くらし分野)を確認。有料記事のため一部要約経由 - パナソニックコネクト、社外秘情報にも対応する「自社特化AI」展開へ(Impress Watch)。ConnectAI(旧ConnectGPT、パナソニック コネクト独自版・国内全社員約13,400名)とPX-AI(グループ全体版)が別システムである点、今後の段階的発展計画を確認。名称変更の周辺状況の裏付けとして使用 - パナソニック、年間利用400万件 生成AI本格導入1年 「まず使う」が知恵生む(日経ビジネス電子版、2024年6月21日)。タイトルと冒頭部分から「PX-AI」年間利用400万件・2024年5月のコミュニティ機能構築を確認。本文全体は有料会員限定のため、確認できた範囲のみ本文に反映 - パナソニックコネクト、生成AIツールを自社導入 年間45万時間の業務削減(日本経済新聞、2025年7月7日)。**この数値はパナソニック コネクト独自の「ConnectAI」の実績であり、PX-AI(グループ全体版)の数値ではない**。本文でも明記して混同を避けた - 「2023年10月にRAG環境『PX-AI Plus』を構築」という情報はWebSearchのAI要約に一度だけ出現したが、一次ソースまたは信頼できる記事本文で直接確認できなかったため、本文には採用しなかった(捏造回避のため意図的に除外)
未確認・非開示のまま残した事項: - Azure OpenAI Serviceの利用料金、パナソニックとMicrosoft/開発パートナー企業との契約形態の詳細 - 2025年以降のPX-AI(グループ全体版)そのものの利用者数・利用回数の最新値(2024年6月の「年間400万件」が今回確認できた最新の一次情報に近い数値) - 「PX-AI Plus」というRAG環境の詳細仕様(未採用)
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