Microsoft 365 Copilot活用事例|3カ月で3つのエージェントを作り、外販サービス化したSCSKの実践知

SCSKはMicrosoft 365 Copilotのライセンスを3,000から約7,000へ広げながら、約3カ月で3つのCopilotエージェントを自社開発し、そこで得た知見を外部向けのコンサルティングサービスとして商品化しました。
ライセンスを配った先で何をするかは、利用率を見ていても決まりません。費用を誰が負担する建て付けにするか、各自の工夫に任せるか業務ごとに作り込むか、得た知見を社外に出すか。SCSKはこの順で決めています。
この記事では、Copilotのエージェントがチャット利用と何が違うのかを確認したうえで、3つのエージェントの中身と展開の順番を見ていきます。読み終えると、自社で次に外すべき障害が見えます。
記事の最後には、自社で着手する業務を選ぶためのワークシートもご用意しています!
この記事の監修者

AIリスキル株式会社 代表取締役
AIツールギャラリーを運営するAIリスキル株式会社の代表取締役。企業・自治体向けの生成AI研修とAI導入支援を手がけています。
実績: 大阪・関西万博 公式プログラム「AI HEROES COLLECTION」司会進行 / 神戸市デジタル人材育成エコシステム構築事業の運営 / MBS「せやねん!」「よんチャンTV」に生成AIの専門家として出演 / Felo日本初コアアンバサダー / Genspark第1期公式アンバサダー / Skywork公式アンバサダー / AKOOL公式パートナー など
はじめに:Copilotの「エージェント」は、チャットと何が違うのか
チャットとして使うCopilotは、利用者がそのつど指示を書き、それに答える道具です。
何を聞くか、どう聞くかを利用者側が組み立てる必要があるため、うまく使える人と使えない人の差が出ます。
一方のエージェントは、特定の業務の手順や参照させたい情報をあらかじめ組み込んでおく形式です。利用者は毎回細かい指示を書かなくても、その業務に沿った支援を受けられます。
作成にはMicrosoft Copilot Studioが使われ、業務部門が自分たちの手順を組み込むこともできます。
SCSKが自社で作ったのは、このエージェントのほうです。ライセンスを配って各自の工夫に任せるのではなく、業務ごとに作り込む方向へ進んでいます。
Copilot本体の機能構成やプランの違いは、Microsoft 365 Copilotの機能と料金で確認できます。
SCSKが自社の課題解決に作った3つのCopilotエージェント
3つのエージェントは、いずれも自社の業務課題から出発して作られています。順に中身を見ていきます。
SCSKは、WordやExcel、PowerPoint、TeamsといったMicrosoft 365を全社の業務基盤として使ってきた企業です。
ライセンスは、当初は希望者への挙手制で3,000でした。その後、全社トライアルの開始にあわせて約7,000まで拡大しています。
Microsoft公式のCustomer Story公開時点(2025年9月)では、5,000以上が社員へ供与されています。
このライセンス拡大と並行して、クラウドサービス事業本部を中心とした複数部署が、3つのCopilotエージェントをMicrosoft Copilot Studioで開発しました。
対象は、若手社員から中堅管理職までの、比較的業務負荷の高い層です。狙いは、時間単位の生産性向上と業務品質の向上に置かれていました。
提案書レビューを担うエージェント
3つのうち、最も具体的に内容が公開されているのが、提案書のレビューを担うエージェントです。
セルフレビュー、上長レビュー、提案作成時の壁打ちとアイデア整理という3つの用途に応じて構成されています。
提案書を作る担当者本人だけでなく、レビューする上長側の作業時間も短くなる設計になっている点が特徴です。
情報共有・活動把握を支援する2つのエージェント
残る2つは、メンバーからの情報共有を支援するエージェントと、メンバーの活動把握を支援するエージェントです。
Microsoft公式のCustomer Storyでは、提案書レビュー用のエージェントほど詳しい機能の内訳は示されておらず、名称と用途の大枠のみが公開されています。
3つに共通しているのは、高度なプロンプトを使いこなせる一部の社員だけが恩恵を受ける形にしなかった点です。業務プロセスの一部をエージェント側に任せています。
クラウドサービス事業本部 副本部長の佐藤利宏氏は、外販サービス化も見据え、短期間で作って成果を出し、そこから改善を重ねるアプローチが有効だったと述べています。
なぜ全社導入とエージェント活用がここまで進んだのか
対象を絞った試行から全社トライアルへ進めた背景には、いくつかの要因があります。なかでも自社で真似しやすいのは、費用の負担先を変えた点です。
当初の3,000ライセンスは、受益者負担で所属部署に利用料金が発生する挙手制でした。
これを部署へのコスト負担なしで希望したユーザーへ供与する形に移行し、利活用の促進を図ったと、業務役員 情報システム本部長の大谷真弘氏は説明しています。
使いたい社員がいても部署の予算が理由で手を挙げられない状態を、先に取り除いたことになります。
次に挙がるのが、すでに社内の標準ツールだったMicrosoft 365との親和性です。
大谷氏は、OfficeアプリケーションやWebブラウザにCopilotを呼び出すボタンが用意されており、日常業務のなかで実際に使う道具として親和性が高かったと述べています。
大谷氏は、セキュリティとガバナンス面での信頼性の高さも全社展開を後押しした要素だったと続けています。
もう1つは、プロンプトを書くスキルという新たなハードルを避けた点です。
佐藤氏は、自分は生成AIを使っていると考えている人の約8割は、サーチエンジンの延長線上にある使い方にとどまっていると指摘しています。
佐藤氏は続けて、業務の負荷を減らすはずのツールが、効果的なプロンプトを書くという新しい習得負荷を生んでしまう構図に触れています。
そこでSCSKは、高度なプロンプトを書かなくても業務を自律的に支援してくれるCopilotエージェントのほうへ軸足を移しました。
これらに加えて、経営層のコミットも影響しています。
大谷氏によれば、SCSKの経営層は自社の日々の業務にAIを利用することを命題と考えており、Copilotの全社展開をネガティブに捉えている人はいなかったといいます。
判断材料として先行事例があった点も見逃せません。
佐藤氏は、親会社である住友商事が同社に先駆けてMicrosoft 365 Copilotの全社展開を進めていたことも、採用を決めた要因の1つだったと振り返っています。
住友商事ではCIOの旗振りのもと2023年度から生成AIの全社展開に向けたワーキンググループが立ち上がり、SCSKもそこに参画していました。
その住友商事側で何が起きたのかは、住友商事の全社導入事例で確認できます。
「使われなくなる」課題にSCSKはどう向き合ったか
新しいツールを全社へ広げるとき、多くの企業が抱える課題は、一部の社員は使いこなす一方で、大半は結局使わなくなるのではないかという点です。SCSKもこの課題に向き合っています。
ITリテラシーの差にどう対応したか
情報システム本部 ITインフラ企画部 部長の加曽利浩司氏は、事業部門のエンジニアや技術営業は自身の生産性向上への適用を考えやすいと述べています。
加曽利氏は続けて、ITを熟知していないコーポレート部門では効果的な活用方法を見つけるのに苦労するケースが少なくないと指摘しています。
この差を埋めるため、SCSKは説明会を繰り返し開催しました。基礎的な知識を何度も提示し、ITリテラシーの高くない社員でもチャレンジしやすい環境を整えています。
利用を広げるもう1つの仕掛けとして、マイクロソフトの協賛によるコンテストを2024年に実施しています。
佐藤氏によれば、告知期間が短かったこともあり応募は100名程度でしたが、受賞者には初心者向けの説明会や座談会へ講師として参加してもらっているといいます。
使い方を身につけた社員が、社内で教える側に回る形です。
全社展開へ舵を切った2025年も、より大規模なコンテストを9月に開催する予定だと示されています。
期待外れで使われなくなるリスクにどう向き合ったか
クラウドサービス事業本部 クラウドサービス第一部 第四課 課長の福田美貴氏は、現場で実感したのは、期待に応じた成果が出なければ使われなくなってしまうことだったと振り返っています。
福田氏はそのうえで、エージェントにどのような情報を盛り込めば期待に近いアウトプットが得られるのかを、マイクロソフトとも議論を重ねながら作り込んだと説明します。
フェーズごとに分けてエージェントを作るアプローチも、マイクロソフト側のアドバイスによるものだったといいます。
なお、これらのエージェントによる作業時間の削減率やコスト削減額は、2025年9月公開のCustomer Storyの時点では公表されていません。
2026年3月のプレスリリースでは、コーポレート部門の先行導入対象者へのアンケート結果として、業務効率化を実感した回答が86%、他業務にも活用したい回答が100%と示されています。
ただし対象人数までは明らかにされていないため、社内提案でそのまま実績値として引用するには根拠が足りません。
以上の内容は、Microsoft公式のCustomer Story1件と、SCSK自身のプレスリリース2件で確認できる範囲にとどまります。
自社の実践知がそのまま外販サービスになった経緯
SCSKの事例が他社の導入事例と異なるのは、ここからです。
社内でエージェントを作り、運用してきた過程で得た知見を、そのまま外部向けのサービスに変えています。
Microsoft 365 Copilotコンサルティングサービスの中身
SCSKは2025年10月31日、「Microsoft 365 Copilotコンサルティングサービス」の提供を開始しました。
SCSK自身のプレスリリースでは、全社規模での実践知を凝縮したサービスと位置づけられています。
顧客がCopilotを使う段階から活かす段階、さらに業務の革新へ進むまでを支援する内容です。
扱う範囲は、業務シナリオのタスク分解、課題感や実現したい状態からのAs-Is・To-Be・将来像のユースケース設計、業務自体の見直し、インプットとアウトプットの再定義までです。
第一弾の対象は、人事、広報、企画、監査といったコーポレート業務です。
これは、SCSK自身が社内展開で直面した、ITを熟知していない部門でどう定着させるかという課題と重なります。
第二弾以降は、対象業務の拡大や複雑な業務プロセスへの適用まで広げる方針が示されています。
2026年3月のプレスリリースでは、この取り組みの特徴が、現場・コンサル・技術が一体となった伴走型の推進体制として説明されています。
現場の課題を起点に解決策を速やかに形にし、使いながら改善するサイクルを回す進め方です。
これにより、現場自身がAI活用を考え、広げていける状態(自走化)を目指したとされています。
現場・コンサル・技術の三位一体という言い方でまとめられており、社内で組み立てた推進体制と、外販サービスの支援範囲が重なっていることが読み取れます。
社内の「気づき」がビジネスチャンスになった例
外販化のヒントは、社内運用のなかの細かな気づきからも生まれました。
佐藤氏は、TeamsチャットやTeams会議のデータは、Copilotが個々のタスクを紐づけられる形にしておかないと効果的に活用できないことがわかったと述べています。
佐藤氏は続けて、こうした気づき自体が外販に向けた大きなビジネスチャンスになると指摘します。
今後は、Microsoft 365 Copilotでカバーしきれない部分をAzure OpenAI Serviceで補ってエージェントを作成し、エージェントストアで提供していく構想も語られています。
一方で、コンサルティングサービスの価格や契約形態、実際に契約した企業名、エージェントストアへの提供時期は、確認できた一次情報の範囲では明らかにされていません。
導入を検討する場合は、これらの条件を個別に問い合わせて確かめる必要があります。
検討中の企業は何から始めればいいか
SCSKの進め方で目を引くのは、最初から全社最適解を狙わなかった点です。
複数部署と連携して作り上げた10余りのユースケースから3つを選び、約3カ月という短期間でエージェントの作成にこぎ着けています。
候補を広く集めてから絞り込んだこの順番が、自社で試すときの参考になります。
まず、業務負荷が高くプロンプトを書く余裕もない部署やレイヤーを特定します。SCSKの場合は若手社員から中堅管理職でした。
そのうえで候補となる業務を一度並べ、検証しやすいものへ絞ります。提案書のレビューのように、成果物と評価者がはっきりしている業務は起点にしやすい対象です。
作り込みの段階では、ベンダー側の担当者と議論しながらフェーズごとに分けて進めると、期待外れで使われなくなるリスクを抑えられます。
定量的な効果は今回の一次情報からは得られません。社内提案の材料としては、小さく区切った検証で自社の数値を取るところまでを計画に入れておくと判断しやすくなります。
着手する前に、次の点を確認しておくと迷いが減ります。
- ライセンス費用の負担先が、利用をためらう理由になっていないか
- 候補となる業務を一度並べたうえで、着手する対象を絞り込めているか
- 成果物と評価者がはっきりしている業務から始めようとしているか
- ITリテラシーの差を前提に、説明の機会を繰り返し用意できているか
- 定量的な効果を自社で測る計画まで、検証の設計に含められているか
まとめ:自社の実践知は、そのまま検討材料になる
SCSKの事例で参考になるのは、利用が広がらない状態を社員の意欲や理解度の問題として扱わなかった点です。
部署に利用料金が発生する仕組みを外し、プロンプトを書けることを前提にしない形へ作り替えました。会社側で動かせる条件のほうを先に変えています。
そのうえで蓄積した知見を外販サービスにまで持っていったことが、この事例を社内の効率化の話だけに終わらせていません。
自社の実践知も、進め方を人に説明できる形にまとめた時点で、社外に向けた提案材料になり得ます。
他の企業がCopilotやAIエージェントをどう活用しているかは、他の企業のAI活用事例で確認できます。
Microsoft 365 Copilotをどこから広げるべきか、社内でどう定着させるかまで含めて検討したい場合は、法人向けの相談窓口を利用できます。「全社に広げる道筋が見えない」「一部の人しか使いこなせずに終わりそう」といった段階からの相談にも対応しています。
この記事の出典
- Copilot エージェントによる自社業務課題解決と外販サービス化を推進。Microsoft 365 Copilot の全社導入に舵を切ったSCSK の AI 活用(Microsoft Customer Stories、2025年9月3日)
- SCSK、全社規模の「実践知」を凝縮したMicrosoft 365 Copilotコンサルティングサービスを提供開始(SCSK株式会社、2025年10月31日)
- SCSK、コーポレート業務を起点に生成AI活用を推進(SCSK株式会社、2026年3月19日)
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