近年、生成系AI(Generative AI)の競争は激化し、独自の強みを持つさまざまなモデルが登場しています。そんな中、中国の研究企業が開発したオープンソースモデル「DeepSeek R1」は、従来の大規模言語モデルに新たな風を吹き込みつつあります。一方で、OpenAIによる「ChatGPT(またはChatGPT o1)」は、英語圏をはじめとした多言語への高い適応力と安全対策で多くのユーザーに愛用されています。
本記事では、両者の重要な特徴をまとめながら、コストや性能、活用シーンといった実際に使う際の“お得感”や“注意点”を中心に解説します。無料で使えるAIに興味がある方や、AIの導入コストを抑えたい方の参考になれば幸いです。
DeepSeek R1とは?
DeepSeek R1は、中国の研究企業「DeepSeek-AI」が開発したオープンソースの大規模言語モデル(Large Language Model, LLM)です。オープンソースという性質から、開発者はモデルの内部を検証・改良しやすく、ビジネスや学術研究など、さまざまな場面で独自のカスタマイズが可能です。
さらに、無料で利用できるウェブ版や、安価なAPI提供によって、多くのユーザーが気軽に試せる環境が整っています。
主な特徴は以下のとおりです。
DeepSeek R1の主な特徴
- 無料かつ気軽に試せる
ブラウザで簡単にアクセスでき、クレジットカード情報も不要。手軽に導入できるため、まずは試してみたいという方にぴったりです。 - オープンソースだから自由度が高い
モデルの重み(学習済みデータ)が公開されているため、開発者がモデルをカスタマイズしやすいのが利点。自社サービスへの組み込みや研究用途にも応用しやすいです。 - 推論プロセス(思考過程)の可視化
従来のブラックボックス型のAIとは異なり、回答に至るまでのChain of Thought(CoT)をある程度テキスト化して表示してくれます。誤りがあった場合でも、どこで論理が破綻したかをユーザーが把握しやすい利点があります。
ChatGPT-o1とは?
ChatGPTは、OpenAIが提供する大規模言語モデルの一種で、o1と呼ばれるモデルが存在します。
すでに多くの企業や個人ユーザーが利用しており、こちらも見逃せない強みがあります。
ChatGPT-o1の主な特徴

- 強力な推論力と多言語対応
大規模な教師あり学習(SFT)や強化学習で、複雑な数式や言語タスクにも対応。英語の文章生成ではトップクラスのクオリティを誇ります。 - 安全性・コンプライアンスに注力
外部専門家によるテストや倫理的観点でのチェックが行われており、比較的安心してビジネス利用が可能。 - マルチモーダル対応(一部バージョン)
テキストだけでなく、画像入力を含む多様な情報処理を目指すモデルが開発されています。 - 有料プランの存在
より高速なレスポンスや追加機能を提供する有料プランが用意されており、本格的な業務利用ではコストがかかる点も。 - 複数バリエーションを用意
軽量版の「o1-mini」や高性能版の「o1 pro mode」など、用途に応じて選べるモデルが存在。
DeepSeek R1の開発プロセスと技術的特色

DeepSeek R1は、従来のモデル開発プロセスとは異なる多段階のパイプラインを採用しています。このアプローチが、より高度な推論能力を育むカギとなりました。
多段階パイプラインの概要
- コールドスタート(Cold-Start)
数千件規模の高品質なChain of Thought(CoT)サンプルを収集し、まずはDeepSeek-V3-Baseモデルに対して可読性や整合性を重視した初期学習を実施。 - 強化学習(Reinforcement Learning, RL)
Group Relative Policy Optimization(GRPO)と呼ばれるアルゴリズムを用い、グループスコアに基づいた報酬設計で学習を効率化。数学やコーディング、論理タスクでの精度が大きく向上しました。 - 教師あり学習(SFT)
約80万件のデータセット(推論問題だけでなく多様なタスク)で追加学習することで、汎用性と安定性を向上。
DeepSeek-R1-Zeroからの進化
DeepSeek R1の前身である「DeepSeek-R1-Zero」は、純粋なRL(強化学習)のみで学習しており、推論力は高かった反面、出力の可読性や言語の一貫性に課題がありました。
DeepSeek R1では、コールドスタートと追加のSFT(教師あり学習)を組み合わせることで、読みやすさと正答率を両立しています。
MoEアーキテクチャとパラメータ
DeepSeek R1はMixture of Experts(MoE)方式を採用し、総計6710億パラメータを持ちながら、実行時には37億パラメータ程度がアクティブに動作する設計です。これにより、エッジデバイスや比較的限られたGPUリソースでも稼働可能なスケーラビリティを備えています。
性能評価とベンチマーク
DeepSeek R1は、数学や論理的思考が求められるベンチマークで優秀な成績を収めていることが特徴的です。
主な評価結果

- MATH-500: Pass@1スコア97.3%を記録し、ChatGPT o1の96.4%に肉薄または一部上回る実力を示しています。
- Codeforces(コーディング能力): Eloレーティング2029を達成し、上位数パーセントの参加者に匹敵。SWE VerifiedやLiveCodeBenchでも高スコアをマークし、ソフトウェア開発支援での有用性が示唆されます。
- Reasoning系ベンチマーク: GPQA Diamondでは71.5%、AIME 2024では79.8%を記録。Chain of Thoughtベースの推論が強みとして現れています。
- クリエイティブタスク: AlpacaEval 2.0で87.6%、ArenaHardで92.3%の勝率。技術的タスクだけでなく、発想力を要する質問にも強い点が確認できます。
- C-Eval(中国語ベンチマーク): 91.8%という高い正答率を誇り、中国語圏での利用においても信頼性が高いと考えられます。
DeepSeek R1とChatGPT o1の違い
DeepSeek R1とChatGPT o1を比較する上で注目すべきポイントは、「コストと導入のしやすさ」「オープンソース性」「得意・不得意の分野」です。
日本のユーザーとしては、実務や学習でどう役立てられるかを考えるときに重要な比較基準となります。
コストとオープンソース性
- APIの料金比較
DeepSeek R1のAPIはChatGPT(O1)と比べて27倍安価とされており、クラウドで大量のリクエストを処理したい開発者にとっては魅力的です。 - 無料ウェブ版の提供
DeepSeek R1は無料アカウントですぐに試せるため、小規模事業や学生にも導入しやすいです。 - オープンソースによる拡張性
DeepSeek R1はコードレベルで自分好みに調整が可能。データを使った追加学習(ファインチューニング)や独自の機能拡張もしやすいです。一方、ChatGPT o1は閉じたモデルであり、細かな調整はできません。
数学・論理性能
- 数学問題やパズルへの強さ
DeepSeek R1は「コールドスタート→強化学習→SFT(教師あり学習)」の段階的トレーニングを特徴とし、特に数学やプログラミングといった論理的思考が重視されるタスクで高評価を得ています。 - 思考過程の可視化
DeepSeek R1は推論ステップをそのまま見せてくれることがあり、誤りを発見しやすい利点があります。ただし、必ず正解に到達するとは限らないので、ユーザーが最終的に答えをチェックする手間は必要です。
言語能力と使用感
- 英語文章作成はo1が優勢
英語での洗練された文章生成能力や文章校正・要約などは、ChatGPT o1のほうが精度が高い傾向にあります。これはOpenAIが英語話者から多くのフィードバックを得ているからです。 - 日本語対応やその他言語
日本語など他の言語での利用は、どちらのモデルも日々改善が進んでいますが、まだ得意・不得意があるため実際に試すことが重要です。
DeepSeek R1の活用シーン
DeepSeek R1の無料性と推論可視化機能、そして高い論理性能は、さまざまな場面で役立ちます。以下は具体的な例です。
学習のサポートに
- 数学の解説・論理パズルのヒント
解答に至るまでのステップを丁寧に表示するため、“公式や論理展開の理解”がしやすいです。自習での学習効率を高めたい学生にとっては頼もしい存在です。 - エラー検出・誤りの学び
仮に答えが間違っていても、どこで誤ったのかを推論ステップから確認できるため、学習時のフィードバックが強化されます。
コンサル・ビジネスでのアシスタント
- 分析作業の自動化
会社の財務データや競合情報を入力すると、要点をまとめたり、簡易レポートを作成したりといった“アナリスト的な作業”を手助けしてくれます。 - リサーチ補助
大量の資料をインプットしても低コストで要約・考察が可能。特に深夜や急ぎのタスクにおいて、ディスカッションのたたき台として役立ちます。
小規模事業での専門家相談の効率化
- 法律・税務の初歩的な疑問解消
いきなり高額な士業に依頼する前に、DeepSeek R1で疑問点を整理しておくと、実際の相談時間を短縮でき、費用削減につながります。 - 契約書の雛形作成など
ライセンス契約やフリーランス契約などのドラフトを作成し、専門家に最終チェックを依頼する流れもスムーズになります。
まとめと今後の展望
DeepSeek R1とChatGPT o1は、それぞれが得意とする領域を持っています。無料で使える利点やオープンソースとしての拡張性を重視するならDeepSeek R1が魅力的ですし、高度な言語能力や安全性、幅広い多言語対応などの総合力を求める場合はChatGPT o1が優位です。
競合が激化することで両者がさらに進化し、ユーザーとしてはより高機能・低コストな選択肢を得られることが期待できます。まずは実際に使ってみて、自分のニーズに合ったモデルを見極めてみてはいかがでしょうか。