ChatGPTが「チャットAI」から「アプリプラットフォーム」に変わりつつあります。2025年12月にOpenAIがApps SDKとApp Directoryを公開して以来、さまざまな企業がChatGPT上で動くネイティブアプリを続々とリリースしています。Spotify、Expedia、Canvaなどの大手に続き、日本企業の参入も始まりました。
この記事では、2026年2月に登場した3つのChatGPTアプリ(freee確定申告・HeyGen・ElevenLabs)を取り上げます。税務、動画制作、音声生成と分野はバラバラですが、「ふだん使っているChatGPTの中でそのまま使える」という共通点があります。それぞれ何ができて、どんな人に向いているのかを整理しました。
ChatGPTが「アプリストア」になった背景
まず、「ChatGPTのアプリ」とは何かを整理しておきます。OpenAIは2025年12月18日にApps SDKを公開し、ChatGPT Plus・Team・Enterpriseユーザー向けにApp Directoryをオープンしました。技術的にはModel Context Protocol(MCP)をベースにしており、開発者はChatGPTの会話画面の中で動くアプリを作れるようになっています。
従来のChatGPTプラグインやGPTsとの違いは、アプリ側が独自のUIやデータソースを持ち込める点です。ChatGPTに「freee確定申告を使って」と話しかけるだけで、そのアプリが起動し、会話の中で結果が返ってきます。
🔄 ChatGPTアプリの使い方(共通フロー)
ユーザー側はアプリごとにアカウントを作ったり、別サイトに移動したりする必要がありません。ChatGPT Plusの契約があれば、追加費用なしで使えるアプリも多いです。ただし、2026年2月時点ではアプリによって対応プランが異なるので、利用前に確認しておくのが安心です。
freee確定申告 ― ChatGPTで税務の質問に「専門家の回答」が返ってくる
freee株式会社が2月17日にリリースした「freee確定申告」は、ChatGPT上で税務の疑問に答えるアプリです。国内企業としては初のChatGPTネイティブアプリとなりました。
ポイントは、AIが回答を生成するのではなく、税理士が実際に回答した1万件超のQ&Aデータベースから関連情報を検索・表示するという仕組みです。回答には税理士の氏名と所属が明記されるため、「これ、本当に合っているのかな」という不安を減らせる設計になっています。
📊 確定申告の疑問を調べるとき
❌ 従来のやり方
ユーザーの行動
「副業の収入 確定申告 必要」でGoogle検索 → 複数のサイトを比較 → 情報の信頼性を自分で判断 → 結局よくわからない✅ freee確定申告を使う場合
ユーザーの行動
ChatGPTで「副業で20万円の収入があったけど、確定申告は必要?」と質問 → 税理士の実回答が引用付きで表示たとえば「フリーランスで在宅勤務。光熱費はどこまで経費にできる?」と聞くと、過去に税理士が同様の質問に答えた回答が、出典情報付きで表示されます。ChatGPTが一般知識から「たぶんこうです」と答えるのではなく、専門家の実績ある回答を引っ張ってくるのが、他の税務系AIチャットとの違いです。
💡 確定申告シーズンに間に合うタイミング
2026年の確定申告期間は2月16日〜3月16日。freeeがこのタイミングでリリースしたのは、個人事業主やフリーランスの「今すぐ知りたい」に応えるためです。ChatGPT Plusユーザーなら追加料金なしで使えます。
⚠️ freee確定申告の注意点
表示されるのは過去の税理士回答の検索結果であり、個別の税務相談の代わりにはなりません。具体的な申告判断は、税理士に直接相談することをおすすめします。また、ChatGPT Plus以上のプランが必要です。
HeyGen ― ChatGPTの会話からAIアバター動画を作れる
AI動画生成プラットフォームのHeyGenが、ChatGPTのネイティブアプリとして利用可能になりました。これまでHeyGenで動画を作るには、HeyGenのサイトに行ってアカウントを作り、テンプレートを選んで…という手順が必要でしたが、ChatGPTアプリ版では会話するだけで動画が完成します。
仕組みとしては、HeyGenの「Video Agent」がChatGPTの背後で動いています。ユーザーがテキストで指示を出すと、Video Agentが台本作成、アバター選択、ナレーション生成、モーショングラフィックス追加までを自動で処理します。できあがった動画に不満があれば、チャットで「もう少しゆっくり話して」「背景を変えて」と修正を指示できます。
🔄 HeyGenでの動画作成フロー
800万人以上のChatGPTユーザーがこの機能にアクセスできるため、動画制作の敷居が大きく下がります。たとえば「新商品のSNS用30秒紹介動画を、女性アバターで日本語で作って」のように指示するだけで、アバターがナレーション付きで商品を紹介する動画が出てきます。
HeyGenはSlackアプリとしても提供を開始しており、Slackのチャンネル内から「この議事録を動画レポートにして」といった使い方もできるようになっています。Businessプランでは、これらの連携機能がAPI契約なしで利用可能です。
ElevenLabs ― 感情を読み取って声のトーンを変えるAI音声
AI音声生成のElevenLabsは、最新モデル「Eleven v3」を正式リリースするとともに、「Expressive Mode」という機能を発表しました。70言語以上に対応し、ChatGPTやその他のプラットフォームとの連携を強化しています。
Expressive Modeの特徴は、AI音声エージェントが相手の声のスピードや大きさからストレスレベルを感知し、自動的にトーンを調整する点です。たとえば、電話対応のAIエージェントを作っている場合、顧客がイライラした声で話すと、AIは自動的に落ち着いたトーンに切り替えます。人間のオペレーターが自然にやっていることを、AIが再現しようとしています。
Audio Tagsで声の演出をコントロール
Eleven v3では「Audio Tags」という機能が加わりました。テキストの中にタグを埋め込むことで、音声の演出を細かく指定できます。
具体的な使い方はこうです。
感情タグ
[excited] [sad] [angry] など。テキストの前に入れると、その感情で読み上げます。
演出タグ
[whispers] [laughs] [sighs] など。ナレーションやポッドキャストで「生っぽさ」を加えます。
ペーシングタグ
[pause] [rushed] [drawn out] など。間の取り方やスピード感を調整します。
たとえばポッドキャスト用の原稿で「[excited] 今日のゲストはなんと… [pause] AIツールギャラリーの編集長です [laughs]」と書くと、興奮した声で始まり、間を置いてから紹介、最後に軽い笑い声が入る音声が生成されます。
Text-to-Dialogue APIを使えば、複数の話者による会話を1つの音声ファイルとして出力することも可能です。話者ごとにJSON形式で台本を渡すと、自然なタイミングで掛け合いが生成されます。料金は1分あたり$0.08からで、既存のElevenLabs TTS料金と同等です。
3ツール横断比較 ― 用途・料金・連携方法の違い
3つのツールは分野がまったく異なりますが、「ChatGPTの中で完結する」という共通のアプローチを取っています。自分の目的に合うツールを見つけるために、主な違いを比較しました。
| 比較項目 | freee確定申告 | HeyGen | ElevenLabs |
|---|---|---|---|
| 主な用途 | 税務Q&A検索 | AIアバター動画の生成 | AI音声・ナレーション生成 |
| ChatGPTアプリ | ✓ 対応 | ✓ 対応 | ✓ 対応 |
| Slackアプリ | 非対応 | ✓ 対応 | 非対応 |
| AI生成 or 検索型 | 既存データの検索・引用 | AI生成(動画) | AI生成(音声) |
| 必要なプラン | ChatGPT Plus | HeyGen Business推奨 | ElevenLabs有料プラン |
| 日本語対応 | ✓ 完全対応 | ✓ 対応 | ✓ 70言語以上 |
| 想定ユーザー | 個人事業主・フリーランス | マーケター・営業担当 | コンテンツ制作者・開発者 |
| 追加コスト | なし(ChatGPT Plus内) | あり(HeyGenの契約が別途必要) | あり(ElevenLabsの契約が別途必要) |
freee確定申告は、ChatGPT Plusだけで追加費用なく使える点がユニークです。一方、HeyGenとElevenLabsは、ChatGPTを「入口」として使いつつ、実際の処理は各サービスのインフラで行うため、別途そのサービスのプラン契約が必要になります。
もうひとつ目を引くのは、freeeの「AIが生成しない」というアプローチです。HeyGenとElevenLabsが「AIで新しいコンテンツを生成する」のに対し、freeeは「専門家の既存回答を検索して引用する」設計です。税務という正確性が求められる分野では、AIの生成結果を鵜呑みにするリスクを避ける現実的な選択と言えます。
まとめ ― ChatGPTは「何でもできる窓口」になるのか
freee確定申告、HeyGen、ElevenLabsの3ツールに共通しているのは、「ユーザーが新しいツールの使い方を覚える必要がない」という設計思想です。ChatGPTという使い慣れた画面で自然言語で指示するだけで、税務相談も動画制作も音声生成もできる。これは、ツールが多すぎて選べないという問題に対するひとつの答えです。
OpenAIのApp Directoryは2026年2月時点でまだ初期段階にあり、対応アプリは今後も増え続ける見込みです。現時点では、各アプリの品質や機能にばらつきがあるのが実情ですが、「ChatGPTさえ開いていれば、たいていのことはできる」という世界に少しずつ近づいています。
今回紹介した3つのアプリは、どれも無料で試せるか、既存のChatGPT Plusで利用開始できます。気になるものがあれば、ChatGPTのApp Directoryで検索してみてください。




